金持ち父さん貧乏父さんで有名な著者・ロバートキヨサキの下記の本「金持ち父さんの起業する前に読む本 改訂版」を読んだよ。
独立系の書籍はいくつか読んだが、それらと対比して考えた時、著者は本当にモデル化がうまいなと思った。この手の本は各論について己の想いをぶつけるような形になりがちだが、著者は想いを抽象化してモデルにしたうえで、現実の事象に当てはめて説明するスタイルであるため、読者としても自分のことに当てはめやすい。
書かれていること
モデル化は別で章立てしたので、それ以外のところで、いくつかの面白かったところを書いていきたい。
起業家の仕事
ハーバード大学のハワード・H・スティーブンソン教授によれば、起業家の仕事は下記であるという。
起業家の仕事は経営へのアプローチの一つで、われわれはそれを『現時点でコントロール可能な資源の種類や量にかかわりなく、チャンスを追求すること』と定義する
p.15
大学の先生を揶揄しがちな著者が、よけいなものがついていなくて真髄をついていると称賛した定義である。まぁ、文脈としては大学批判の弁明という感じだが。また、同教授は起業家と従業員を発起人と受託者で区別し、うまく比較している、とも称賛している。
教授によれば、発起人はチャンスを重視し、受託者は資源を重視する。これは言い換えると「どうやったら出来るだろう?」と「今できることはなんだろう?」になるかと思う。また、組織について発起人は非公式な水平の協力パートナーを求め、受託者は形式化された垂直構造を求める。つまり組織作りをやりたがるのは従業員だということだ。これは起業家と従業員の目標の違いからくるものだろう。発起人は価値を求め、従業員は安全を求める、とも書いていた。同根に思える。
目標よりプロセス、プロセスは使命から生まれる
著者は目標よりもプロセスが大事だと言う。著者の起業や事業に対する考え方が如実に出ていることかもしれない。しかしそれはもちろん結果を出さなくてよいわけではない。負け犬でいていいことなど何もないとも書かれている。つまり、良い結果を出すために最大限の努力を続けるプロセスにこそ価値がある。そしてそれができるのは、使命があるからだ、というわけだ。
単一戦術、複数戦略
戦略、戦術をどのように表現するかは人それぞれだが、本書においては以下のように表現される。
戦術とは何をするかで、戦略とは戦術をどう遂行するかについてのプランだ。
p.233
面白いのは、戦術は一つで戦略が複数だということだ。直感的には逆に思える。戦術の具体例として、ドミノピザの「30分以内にピザを届ける」ウォルマートの「いい品を最も安い価格で」をあげている。戦略の具体的なところはP.237に例があり、著者の出したキャッシュフローゲームについて、「本を42カ国語で出版」「ゲームを14カ国語で発売」「オンラインゲームを提供」などが挙げていた。なるほど。
そういえば昔読んだ別の書籍で、「戦略とは指標である」という考え方があったが、それは採用できそうな気がした。
ビジョナリーカンパニー2を薦める
本書では何度もジム・コリンズの著書『ビジョナリーカンパニー2 飛躍の法則』が薦められている。上記の単一戦術、複数戦略についても「ハリネズミの原則」として書いているらしい。どっかで読むか。
ローリスクでユニークな戦術
P.236あたりの話を一言でまとめた。ビジネスを始める時には、ローリスクで、他社ができないユニークな戦術をとろう、という話。まぁそりゃそうなんだけど、言葉としてわかりやすい。
モデル
クワドラント
本書でもっともよく出てくるモデルが、ビジネスにかかわる人を4つに分類したものだ。
- Bクワドラント: big business owner
- Iクワドラント: investor
- Sクワドラント: small business owner
- Eクワドラント: employee
本書は基本的にSからBを目指すものになっているが、これの「何故」について下記のように税法上の理由とあったのが意外であった。
金持ち父さんが私に、BとIのクワドラントで起業家になるように薦めた理由の一つは、税法がこの二つのクワドラントに有利になるように作られているからだ。
p.26
税法はその国の考え方が反映されたものの一つであり、アメリカと日本では当然異なるが、基本は同じかもしれない。実際、表面税率と実効税率の差を見ると大企業のほうがうまく節税している現実もある。一方で、それでも無数の中小企業があるのは、日本の場合中小零細もそれなりに優遇されている面があるのでは?という風にも思える。ここらへんは詳しい人に意見を聞きたいものである。
実際、著者は自分がどのクワドラントに属するのが良いかも見極めるように書いており、必ずしもすべての人がBクワドラントを目指すべきとは考えていない(当たり前と言えば当たり前)。また、Sも起業家である。
本書はS->Bの本ではあるけれど、その他のクワドラントにおいてもだいぶ参考になることが書かれていると思う。正直僕自身はSじゃないかと思っている。
B-Iトライアングル
ビジネスを形作る仕事をモデル化したもので(p.91)、B-Iは前述のBクワドラントとIクワドラントを示すが、現実にはEクワドラント、つまり従業員を含む、すべてのビジネスパーソンに当てはまるものだ。図については「B-Iトライアングルの5つの要素その1〜お金の授業No.15〜 | Rich Dad Media」を参照されたい。ここでは5つの項目を上から箇条書きで列挙する。
- 製品
- 法律
- システム
- コミュニケーション
- キャッシュフロー
下にいくほどベースと言える。特徴的なのは、キャッシュフローが一番のベースだということだろう。何はなくともキャッシュフローで、これは本書でも何度も口酸っぱく言われている。一番大事だとも書かれている。つまり財政的なみとおしを数値で言える必要があるというわけだ。ビジネスプランには数字が必要だ。
このリストを見てエンジニアとして思うことは、「サービスのインフラは製品なのかシステムなのか」ということだ。エンジニア的にはそれは製品なのだが、恐らく本書においてはバックオフィスと同様にシステムの扱いになるのではないか。つまり製品とは機能ないし仕様そのものだと考えられる。
すべてそこそこ必要だが、大きくなろうと思ったらどこか一つは極めていかないといけない、とのことだ。
考え方の4つのタイプ
物事の考え方をACTPの4つに分類している。書籍ではマトリクスになっていたが、図形的には意味がなく、これについてはリストアップで十分だろう。
- A: Analytical skills
- C: Creative thinker
- T: Technical skills
- P: People skills
内容は字面そのままであるので、あえてここで子細に書く必要はないだろう。
起業家はこれらの考え方すべてについて習熟する必要があるとされる。自分の傾向を見極めた上で、弱点を伸ばしていく必要があるだろう。ちなみに僕はPが極端に弱い。それ以外はそれなりに出来ると思うんだが、著者は「すべての思考パターンで不足していた」と言っているくらいだから、僕が想定するよりもずっと高い基準を求められているのかもしれない。。。
この記事を見ると僕はめっちゃAタイプに見えるかもしれないが、それは本を読んで学ぶということがAタイプの能力を使うものだからだ。ここで僕が延々とC的な持論を書いてたらおかしいからね。
3つのお金
本書はお金を3種類に分類する。
- 競争的なお金
- 協力的なお金
- 精神的なお金
1,2は字面から想像つくと思う。2の協力的なお金は戦略的なパートナーシップで動くお金で、起業家として事業をするうえで従業員時代と異なる考え方になるだろうか。
3が一番特徴的かもしれない。これは多分「金のためにやってるんじゃない」の時に動く金だろう。靖国神社に首相が玉串料を奉納したら騒ぎになるのもこれの一つだろう。金額が問題ではないので、資本主義の観点からは非常に説明しづらいものだと思うが、実際このお金は思いのほか多い。転売ヤーが嫌われるのは、この精神的なお金を競争的なお金に変えているからかもしれない。
ちなみに僕の転売ヤーに関する持論は以下。
問いかけ
これは本書を読みながら自分が思った問いと、著書から僕が読み取った回答になる。
起業は何故失敗するのか?
著者はいくつか理由を挙げている。P.38の箇条書きがそれに当たるが、それをさらにまとめる。
- ビジネススキルの不足
- 実社会でのビジネス経験の不足
- ビジネスを作れず働き口を作っている
- 従業員よりも安い給料で長時間働くから疲れてやめる
著者が訓練としてネットワークビジネスとダイレクトセールスを薦めている(p.50)ことが印象的であった。どちらも印象の悪いビジネスだが、著者に言わせれば大企業もネズミ講方式であるとのこと。
もう少し読み進めると、B-Iトライアングルのどこかが欠落している、という考え方になる。
起業家は何をすべきか?
組織のB-Iトライアングルを盤石にすること。起業家自身はビジネススキルと経験を身につけ、またACPTの思考パターンをすべて身につけ、強くなること。使命を持ち、プロセスを大事にすること。
やるべきことは自分が嫌いなことでもやらなければならない。事業は自分のためではなく、人のためにある。
事業がうまくいくのに必要なものは?
本書は事業がうまくいく方法について書かれているというより、起業家として生きていく方法について書かれているように思う。あえて言うならば、起業家がやるべきことをやっていれば、ビジネスは自ずとうまくいくはずだ、という回答になるだろうか。
最初から経理の専門家を雇うべきか?
雇うべきかどうかはともかく、むしろ起業する前に公認会計士とかに相談しろとある。これは無知のために失う金に比べれば微々たるもの、という考えだ。ただ本書は基本的にBクワドラントを目指したものであることには留意が必要だとも思う。
プロダクトの価格はどうやって決めるか?
マージンによって製品の価格が決まる
p.254
ここでいうマージンとは粗利益のことだ。やや逆算的に思える。
基本的には値下げをしない。値下げは強いビジネス戦略とリソースが必要な強者の手法で、我々はそれをしない方が良いとされる。
特別な顧客のために製品を作り、価格を決めるんだ。次に、マーケティングの力で、その特別な顧客にたどり着く方法を見つけろ。創造的になれ。安っぽくなってはだめだ。バーゲン会場はいい客を見つける場所じゃない。
p.261
最高価格で勝負しろ、そのためには正確なマーケティングが必要だ、という話になる。価格を下げるならおまけをつけろ(P.267)ともある。
どうやってクライアントを見つけるか?
第9章がまるまる「よい客を見つけるには」とそのものズバリなのだが、具体的なメソッドというよりは指針が書かれている。
いい顧客を見つけるには、商品と価格を客のニーズと欲求とエゴに合わせたもにする必要がある。多くの場合、客のエゴは欲求やニーズよりはるかに重要だ。
p.255
エゴが何にあたるかはちょっと説明しづらい。「価格が高いものほど良いものだと思いたがる傾向」なんかはエゴかもしれない。
どちらかというと、前節の価格の項で引用した「バーゲン会場はいい客を見つける場所じゃない」が真髄かもしれない。つまりクラウドワークスは……。
マーケティングについては、「確かE・ジェローム・マッカーシーの分類だったと思う」というやや曖昧な書き方で5つのPをまず紹介している。
- Product
- Person: ほしがる人
- Price
- Plase: 商品の場所
- Position: 市場における位置づけ
このガイドラインに沿ってマーケティングプランをたてていこう、程度の内容だった。Priceはできるだけ高い価格帯であるほうがよいが、高くなるほど顧客が減る。
新たな問いかけ
本書を読んでいて新しくできた問い。
- 日本の税制の実態は大企業にとって有利なのだろうか?形式論ではなく実態として。確かに実効税率は大企業のほうが低い(法的には制約が厳しくなるにもかかわらず)。しかし一方で、中小企業の数が非常に多いことでも有名だ。これはどのように説明されるだろうか?
- もう少し自分向けに言えば、日本ではSクワドラントにとっても美味しいところがあるのでは?という疑問でもある
ロバートキヨサキはアメリカでの起業パターンなので、日本の事情についても考える必要があるかなとは思う。
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