時の首相岸田文雄が増税メガネというあだ名に憤慨している(参考:岸田首相 「増税メガネ」呼称にご立腹…国民は「収支報告書ミス」に怒りぶちまけ(SmartFLASH) - Yahoo!ニュース)と聞いて、「はぁ、一応彼も政治家なのか」と思った。増税メガネというあだ名に危機感を覚えること自体は正しい。このあだ名には政権も殺せるポテンシャルがある。
「検討師」では怒らなかった
彼にはこれまで「検討師」という遣唐使にかけた不名誉なあだ名をつけられたこともあったが、その時はまんざらでもなさそうだったように思う。特に気にする素振りもなく、検討を加速せよとギャグのような言葉が誌面を踊っていたのを見て失笑するしかなかった(しかしこの言葉は別に彼のオリジナルではなく、政治の場では時折用いられる言葉であるらしい)。間違いなくネガティブなあだ名だったのだが、彼にはそこに込められた皮肉が些か難しかったのかもしれない。
しかし、増税メガネはさすがにネガティブなものだと気づいたようだ。ネットでつけられたこのあだ名にたいそうお怒りのようで、最近は首相の遊説中に「増税メガネ」と野次った人が追い出される一幕があったらしく(参考:【政界地獄耳】警察は声上げやすくするより政権批判だけ排除? 「増税メガネ」ヤジに追い出す - 政界地獄耳 - 社会コラム : 日刊スポーツ)、聞く耳はどこへいったのかと揶揄されていた。これが「検討師」であったならば追い出されなかったのではなかろうかとも思う。
増税メガネは深刻
まぁ僕にしてみれば検討師も増税メガネも大差ないけれど、増税メガネは確かに嫌だろうな、というのはわかる。増税メガネは政権が死ぬ可能性がある。
「検討師」はネガティブなあだ名ではあるけれど、まだ少し面白がるようなニュアンスもあった。また、日本では検討自体は必ずしもネガティブには捉えられないし、実際「決めない」というのは我が国においては賢い政治的決断なのかもしれない(まぁその是非はおいといて)。
しかし「増税メガネ」に面白がるようなニュアンスはない。そこにはただ怒りが込められている。しかし秀逸なのは、その怒りは感じられても憎悪が滲み出るほどにはなっていないことだ。そこにあるのは、ただ庶民の差し迫った怒り。しかしそれでもなお、どことなくユーモラスな響きがある。だから、誰でも口にできるし、笑える。そしてなんといっても、一発で覚えられるほどにポピュラーだ。
ネットでは増税クソメガネと呼ばれていることも多いが、こちらはよくない。クソが放送コードに引っかかるという話もあるが、それ以前に憎悪が出過ぎている。増税クソ売国メガネとかどんどん付け足していく人もいるが、当然ながらそれらは流行らない。
ぽっぽ以来の逸材
一昔前、ネットには多くのアスキーアートがあった。その中には当然政治家のAA(アスキーアート)も多くあったのだが、そのほとんどは一部でしか使われていなかったと記憶している。その理由は調べてみるとわかるだろう。政治家のAAというのは、どうもほとんどの場合嫌いな人が作るモノらしく、憎悪がこもりすぎているのだ。そのため、ほとんどの人にとっては使いづらいAAだった。
だがその中で、00年代も後半、傑出した政治家AAがでた。鳩山由紀夫元首相こと、ぽっぽのAAだ。
ぽっぽのAAは素晴らしく秀逸だった。やる夫をベースにしたそのAAは愛らしかった。それでいながら、どことなく当人の面影を残しており、いかにもいいそうなことを言わせるだけで……いや実際の発言も十分ヤバかったので、わざわざ作るまでもなく「日本列島は日本人だけの所有物ではない」「トラストミー」などとぽっぽのAAに言わせるだけで十分面白かった。それは、MSフォントと大画面を前提にしたAA文化最後の隆盛でもあった。
増税メガネがSNSを席巻する
時代は変わり、AAは廃れ、代わりに再び文字列の時代がきた。いやまぁ、世間一般的には動画の時代なのかもしれないが、やはり動画というのは作るのがたいへんであるし、何よりも特定の人物を揶揄するには、いかに相手が政治家といえでも使いづらい。それよりも、端的に文字列をシェアする方が、多くの市井の庶民にとっては馴染みやすくやりやすいものだ。
ただ他人の創作物をシェアするのではなく、庶民が積極的に自分の表現を発信する手段としては、文字列が今なお最適な手段である。そんな中で、誰が呼んだか「増税メガネ」がもっとも代表的なテキストベースSNSであるTwitterの中で流行した。なんならもう👓の絵文字だけで文脈によっては当人を表現するレベルになっている。
これはぽっぽ以来の秀逸なミームだ。前述したように、そこにあるのは怒りなのだが、どことなくユーモラスな響きがある。これならば比較的多くの人が使える。まぁ使えるとは言っても、やはり政治家を揶揄するものには違いないので、政治の話を意図的に避けているアカウントや、たとえ政治家であっても人を揶揄することを忌避するアカウントでは使えないだろう。しかし別にそうでもないありきたりな普通のアカウントでは使えるだろう。ただの文字列だし、ぽっぽほどあからさまに馬鹿にした感じもないので、その使いやすさはぽっぽ以上だと考えられる。
政治家に絡むミームとして、これほどポピュラーなものは珍しい。このミームは人口に膾炙する可能性がある。そして定着したが最後、岸田政権は終わりであるし、ついでに自民党も相当つらいことになる。当たり前だが、増税されて嬉しい人などいない。減税は国民の信を問う必要があるなどとのたまう政治家も、腹の底では理解している。だから増税のイメージが定着することだけは避けたいわけだ。
ということで、増税メガネにはマジで政権を殺せるポテンシャルがある。なので、岸田文雄が憤怒し検討もせず排除に走る危機感を感じているらしいのは、彼も一応政治家としてそこらへんはわかっているのだなぁと、妙な感心を覚えたが、まぁ実際は単に度量が小さいだけかもしれない。
減税すれば勝てるのに
増税メガネの流行にたまりかねたのか、これまで頑なに減税を拒んできた政権だが、おそらくは選挙を前にして、急に減税を言い始めた。これはSNSで「岸田さんは増税していない」と事実に反する無理筋の擁護をするよりは多少効果的だとは思うが、しかしトリガー条項凍結解除も頑なにしなかった彼が何を言ったところで信ずるに値しない。というかそういったことの積み重ねが、今の増税メガネに繋がっている。ついでに、彼の減税案は偽減税であるとネットでは即座にその欺瞞を喝破されてもいる。
- 「偽減税」確定なら〝国民の怒り爆発〟岸田政権、所得減税見送りか 自民提言案判明「他の減税案も…見送られる懸念」(1/2ページ) - zakzak:夕刊フジ公式サイト
- 「偽減税」にだまされるな、“増税メガネ”岸田首相、減税強調も12月から増税ラッシュ 連載:小倉健一の最新ビジネストレンド|FinTech Journal」
- 岸田首相が言い出した「季節外れの花粉症対策」は増税の口実 国民1人1000円が「森林環境税」として住民税に上乗せ|NEWSポストセブン
しかし逆に言うと、本当に減税すれば自民党は勝てるのである。高橋陽一氏がYouTubeで「メガネを投げ捨てて減税宣言すれば勝てるよ」的なことを言っていて笑った。まぁでも、やらんだろうな。総理になりたかっただけの人と世間は言うが、本当のところ世襲貴族にとっては総理の座や党の勝利よりも、今の大きなスキームを維持することが重要なのである。そしてスキームの運用・拡大費の原資を失う減税は、スキームを壊す可能性があるので、絶対にやりたくないわけだ。
それは自民党と一緒になって我が国を蝕んでいる野党も一緒だ。彼らもまたそのスキームの一部なので、本音では減税を歓迎していない。むしろ増税して公金チューチューしたい。立憲民主党などはあからさまである。まぁ新興勢力の維新、国民民主あたりに希望を持ちたいところではあるのだが、あまり期待はできないと思っている(既に高い金融所得課税をさらに増税しようとするの本当にやめろ)。実際ちゃんと資本主義しようとしているのがあのN党くらいに見えるというのが、どこかに一票は入れなくてはいけない一国民としてはつらいところである。
変化の兆し
まぁしかし、全体的になんとなく活気づいてきたような感じもしている。それは良いことだ。GDP 4位転落などのニュースも流れてくる今日この頃だが、しかしまだ我が国には力がある。力が残っている間に、なんとか、変わっていかねばならない。
このミームの流行は、その変化の兆しであると、僕としてはポジティブに捉えたい。
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