先日、母の日セールでKindle端末が安売りされていた。読書をしなくなったという母に購入することを検討したが、色々と難しいところがあると考えてやめた(「電子書籍は本の管理が面倒くさい…雲の上の不自由な本棚について」)。現時点ではある程度はガジェットに理解ある人でないと、電子書籍端末は使いこなせないだろう。だが一番のハードルは、やはりコンテンツを揃えなくてはいけないことではないだろうか。せめてファミリーライブラリが日本でも実装されれば、取っ掛かりになるのだが。
Kindleのハードル
AmazonのKindleは素晴らしい。それは確かだ。私は、Kindle Paperwhiteを持っているし、数百冊のKindle書籍を購入している。ほとんどのKindle書籍にDRMがかかっていることは悲しいけれど(僅かながら、非DRMのKindle書籍もある)、使い方を考えれば便利なものである。しかし、多くの人にとってはまだまだ難しい代物だろう。
先日は母の日セールとやらでKindle端末が安売りされていた。母の日に1万円のものをプレゼントするとなれば、贈り主もそれなりの年齢のはずだが、その「母」である人たちに、Kindle端末を自由自在に使いこなせる人はいったいどれだけいるのだろうか。母の日と銘打ってはいるものの、実際には自分のために購入した人が多かったのではないかと思う(そしてAmazonもそれをわかっている)。
どうして母に購入するのが躊躇われるかと言えば、使い方の問題もあるけれど、それよりなにより、まずKindle書籍を購入するというハードルが高いからだ。デバイスを買って終わりではない。コンテンツを買ってもらうことでコストを回収しようというモデルなのだから、当然といえば当然である。でなければ、これだけのデバイスを1万円で売ることなど出来まい。
とはいえ、これから電子書籍を始めようという人にとって、Kindle書籍を揃えなければいけないのは些かハードルが高い。電子書籍自体に馴染みがなく、得体の知れないものである。よくわからないものにおいそれとお金は出せない。それだったら、今まで通り紙の本を買うのが自然だろう。
わかったらわかったで問題がある。Kindle書籍はKindleでしか読めないので、もし使ってみて「やはり電子書籍は気に入らないな」と思ったら、買った書籍がすべて無駄になってしまうし、Kindle以外のストア(Koboなど)を利用したいと思っても、そうやすやすと移行できるものではないとなれば、やはり抵抗があるだろう。
結局、既にiOSやAndroidのKindleアプリでKindle書籍を集めている人でなければ、Kindle端末など中々プレゼントできるものではない。そしてそのような「母」はあまり多くはいないだろうし、私の母もそのご多分に漏れない。青空文庫にあるような古典を楽しめる人であれば良いのだが、そういう母もやはり多くはないものである(もしかしたら無料本ハンターになる可能性もあるが、それは読書を豊かにするものではないと思う)。私は電子書籍がもっと広まってほしいと願っているクチなので、布教の意味も込めてプレゼントしたいところであったが、使われないものを送っても仕方がない。
ファミリーライブラリがあれば
電子書籍の便利さは使いこなして初めてわかるものである。逆にいうと、使わなければその便利さはわからない。便利さがわかるまでには、少なくないお金と時間という初期投資が必要である。その投資をしようという人間は、元よりガジェット好きな人、嵩張る書籍の持ち運びに辟易としている人、出張や旅行・引越しが多い人などに限られるだろう。だが、それは決してマスではない。それでは電子書籍は広まらない。
どうすれば母のような人に電子書籍を楽しむきっかけを与えることができるだろうか。それにはやはり、最初からある程度楽しめるコンテンツを揃えておくしかないだろう。
米国では2014年よりファミリーライブラリなる仕組みが実装されているらしく(参考「米アマゾン、キンドルで家族内の電子書籍共有を可能に :日本経済新聞」)、これは(仮想的に登録した)家族でKindle書籍を共有できるというものらしいのだが、こういった仕組みがあれば、ハードルは随分下がるのではないかと思う。一冊の本を家族で共有するのは当たり前になされてきたことだし、技術的に共有や貸し借りの仕組みが作れるのであれば、是非とも導入してもらいたいものだ(もっと言えば、何も家族に制限する必要もない)。
もしファミリーライブラリが日本でも使えるようになれば、先に述べたとおり私は電子書籍の普及を臨む人間であるので、母の日セールをっきかけにKindle端末を母に贈るということはありえた(それで使ってもらえるかどうかは未知数だが…)。DRMについては日頃苦々しく思っているが、現状それをしなければどうにもならないのだということなら、せめてその枠組の中で実現できる利便性に目を向けてもらえないものだろうか。
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