アップル、グーグルが神になる日 ハードウェアはなぜゴミなのか?, 上原昭宏、山路達也著, 光文社新書, 2015
いろんな意味で光文社新書らしい、非常に刺激的なタイトルとサブタイトルであるが、内容的にはBLE(Bluetooeh Low Energy)の本であった。Raspberry Pi 3に内蔵された印象しかなかったが、聞くと確かに使えそうに思える……思えるが、どう使ってよいかはやはり思い浮かばない……。
"ゴミの意味"
まず目を引くのはハードウェアはなぜゴミなのか、という文言である。脊髄反射でつい一言文句を言ってしまいたくなるが、読んでみると、どうやらこれはネガティブな意味で用いられているのではないようだ。大切なものはサービスであって、ハードウェアはそのための入れ物でしかない、いや、そうでなくてはいけない、ハードウェアをゴミとして捨てられるように、ビジネスを設計しなくてはいけないのだと、そういうニュアンスである。
ネガティブなワードをポジティブ(?)な意味合いで用いるのは、個人的には好きな表現方法なのだけれど、それにしても勇気のあるタイトルだなと思う。読めばTwitterでもそのようなことを言っているらしい。色々な方面から厳しい言葉を投げかけられているだろうことは想像に易い。それでもなおそう言い続けるのは、意志あってのことだろうが、著者はだいぶ変わっている。
BLE本
本書の内容は、一言で言うとBluetooth Low Energy、すなわちBLEに尽きる。BLEで以て、IoT(Internet Of Things)が現実味を帯びたという話。
個人的には、IoTはバズワードの親玉だと思っている(「IoT の期待感と現実」)。しかし、著者はIoTをバズワードと認めながらも、バズワードを「当たり前になったからこそ死語となる」と考えているようで、たとえ皆に忘れ去られようと、一時的にでも概念が共有されることを評価するのは、確かに一理あると思った。
IoTの言わんとする概念が当たり前となるのは、随分先のような気もするが、それこそ著者が本書で提示する未来像である。そしてそのためのキーワードが、BLE、Bluetooth Low Energyである。
ガジェット好きであればBLEは嫌でも耳に入る言葉ではあるものの、それがどういうものか調べたことはなかったので、本書はけっこう勉強になった。Bluetoothの名を冠しているから、なんとなくその延長戦上にあるものだと思っていたが、どうやら従来のBluetooth…クラシック・ブルートゥースというそうだ…とは互換性がない、再設計されたものであるらしい。
以下のような特徴がある。
- 従来のブルートゥース(クラシック・ブルートゥース)との間に互換性はない
- 両方に対応したものをBluetooth Smart Ready、BLEのみに対応したものをBluetooth Smartという
- クラシックブルートゥースの問題…詳細なプロファイルが必要→10年後の使われ方を見越したプロファイルなど書けない
- 2.4GHz, 10m, 1Mbps, 0.1mW
- BLEの役割
- データを取得
- 機器を操作
- 存在を認識
- アプセサリAppcessory…アプリケーション+アクセサリ
- 機器の備えている「機能」(キャラクタリスティック)とアプリによる「振る舞い」を分離(ex; 加速度センサという機能、歩数計というアプリ)
- ざっくりの歴史
- 2006, ノキア Wibreeワイブリーという技術をベースにしている
- 2011…Apple iOS 5でコア・ブルートゥースというフレームワークを追
- 2013.7…Android 4.3で対応。2013.10 Windows 8.1で対応
- 2013…iOS 7iBeacon
- デバイスはUUIDで紐付け
- マーケティングのインパクト…店で目の前の商品の情報が出るデモ
- 2015…Android 5.0でiBeacon
消費電力の少なさに驚き。0.1mWとは……。なるほどRaspberry Pi 3に採用されるだけある。iBeaconはコレを利用したものだったのか。表題でアップル、グーグルが神になる日とあるが、それはAppleとGoogleが主導して流れを作っているからということか。大事なことは、両者が作っているのはハードウェアではなく、ユーザー体験だということだ。著者によれば、iPhoneの本質はハードウェアそのものではなく、iPhoneというユーザー体験だという。だからこそ、乗り換えにかかるコストは(金銭を除けば)非常に少ない。そのための仕組みとして、著者はiCloudを非常に評価している(個人的にはあまりよい印象はないが…)。
どうしたものやら
BLEはIoTを実現させるのに十分なもので、そしてエンジニアは、それを使って面白いハードウェアを作るのではなく、素晴らしいユーザー体験をできるようにしなければならない、というのが本書の主張であると思う。タイトルは刺激的だが、主張自体は穏当である。新書にはよくあること。
それ自体は非常に理解できるのだが、問題は、具体的に何をしたらよいのか、やっぱり思い浮かばないということだ……。それがわかれば苦労するまいが……どうしたものやら…。
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