金持ち父さんの著書で有名なロバートキヨサキおすすめの本ということで読んだ。1をすっ飛ばして2の飛躍の法則が薦められていたが、1から読まないと気が済まないオタク根性故に先に1を読んだのだが、本書を読むとこちらのほうがむしろ前の段階に当たるなどと書かれており、言われたとおり2から読んだほうがよかったのか……などと思うなどした。実際1よりも2のほうが良いと思うし、どちらか一冊しか読めないとすれば2を読むべきだと思った。
1の記事は以下。
本書はGoodからGreatになるための飛躍の法則について書かれたものだ。まぁまずそもそもGoodになりたいんだがという気持ちはおいといて、Greatになるための原理については、考えておいてもよさそうである。分厚い書籍だが、最近の経営計画系の本を読むと、「ネタ元はこれか?」と思うくらいに同じ事が書かれているので、実際この領域では古典っぽい。読んでおいたほうが良い書籍の一つには違いなさそう。
前提
飛躍した企業
今回も礼賛の対象と噛ませ企業がある。
飛躍した企業 | 比較対象 |
アボット | アップジョン |
サーキット・シティ | サイロ |
ファニー・メイ | グレート・ウェスタン |
ジレット | ワーナー・ランバート |
キンバリー・クラーク | スコット・ペーパー |
クローガー | A&P |
ニューコア | ベスレヘム・スチール |
フィリップ・モリス | R・J・レイノルズ |
ピットニー・ボウズ | アドレソグラフ |
ウォルグリーンズ | エッカード |
ウェウズ・ファーゴ | バンク・オブ・アメリカ |
前巻のビジョナリー・カンパニーと比べると、知らない企業一覧みたいになっている。これはつまり、ビジョナリーであることと知名度はイコールではないということになるだろう。また、持続できなかった比較対象企業として以下があげられている。
- バローズ
- クライスラー
- ハリス
- ハスブロ
- ラバーメイド
- テレダイン
知らない……。
しかしこの一覧は、前巻のすごすぎる企業一覧よりも魅力的である。すごい企業がいかにすごいかを滔々と説かれてもなぁという気分が前巻にはあったので。
飛躍の法則
本書では、飛躍のための変化の過程が次の3段階に分かれている。また、概念として重要なのはハリネズミの概念と、弾み車である。
第五水準のリーダーシップ
本書で最高水準とされるリーダーシップは、一般にイメージされるものと異なる。謙虚さ + 不屈の精神(p.35)によるものとされ、一般的なイメージよりもかなり地味だ。実際、本書で称賛されているCEOのほとんどは名前が知られていないし、また見た目は普通の人であるという。一方で、経済誌を賑わす派手な経営者は、彼らよりも劣る結果となっていることをデータで示している。
本書では、組織人としての能力の水準が以下のように分類される(p.31)。
- 第五水準の指導者
- 有能な経営者
- 有能な管理者
- 組織に寄与する個人
- 有能な個人
つまりオレオレ経営者は、たとえ能力があったとしても、本書に言わせれば第四水準ということになる。そしていなくなった後の企業はしばしば迷走する、という事例をいくつもあげている。
一方で第五水準の指導者は、謙虚でありながら職業人としての意思の強さを持ち、自分ではなく会社を成長させることに尽くす。
第五水準のリーダーシップを習得することは並大抵ではなく、多くの資質と恵まれた環境の必要性が説かれているが、個人的に興味深かったのは、「世界観が変わるような体験」である。
データを見ていくと、今回の調査の対象になった指導者のうち何人かは、世界観が変わるような体験をしており、それが契機になって人間として円熟したと思える。
p.59
やはり積み上げたものが上限を突破して殻を破るには、劇的な体験は必要なのか。と思ったが、これは必ず必要というわけではなくて、残りの指導者については以下のように書かれている。
ごく普通の人生を歩み、やがて第五水準の頂点に立つようになっている。
p.59
結局なんでもいいんかい。結論としては、「証明は出来ないけど多くの人がなれるのではないか」というようなことが書かれている。ほんまかいな。
最初に人を選ぶ
本書は、人を選ぶのが最初で、目標は後で良いとしている。また、「一人の天才を一千人で支える方式はとらない」(p.73)とも説かれる。
適切な人がいれば最適な道は彼らが自ずと探し出すハズだし、また一人の天才は彼と共にビジョンも消えることを意味しているからだ。
また、重要なのは人材ではなく適切な人材とも言っており、不適切な人材に席を与えてはいけない、くらいのことが書かれている。これは経営者レベルならばともかく、従業員にまでなると、日本の場合現実的には難しいかもしれない(だからこそ採用が非常に厳しくなるのだが……)。
これは自分もかなり同意するところで、また今までの仕事人生における反省点でもある。どんなに人手が足りなくても、誰でもいいわけではない。むしろマイナスということは往々にしてある。
問題は適切な人材とは何かであるが、これは一言で言える何かではなさそうである。
ハリネズミの概念
本書に書かれているもっとも重要な概念の一つがハリネズミの概念だろう。ハリネズミと狐の戦いの短い寓話をもとにしている。狐のほうが智慧があるのに、いつも勝つのはハリネズミ。これについて、複雑なものを複雑なまま理解する狐型と、基本原理・概念で単純化し、まとめあげ、行動を決定するハリネズミ型にわけている。
ハリネズミの概念とは、以下の3つのANDとされる(p.153)。そしてこのANDはすなわち戦略である。
- 自社が世界一になれる部分
- 経済的原動力になるもの
- 情熱をもって取り組めるもの
また、ハリネズミの概念について著書では以下のように説明されている。
ここから、この章でもとくに重要な点を導き出せる。針鼠の概念は、最高を目指すことではないし、最高になるための戦略でもないし、最高になる意思でもないし、最高になるための計画でもない。最高になれる部分はどこかについての理解なのだ。この違いは、まさに決定的である。
p.156
つまり、理想ではなく現実である。また、「中核事業」とは異なるとも書かれる(p.159)。中核事業ですらない可能性があるわけだ。著書では繰り返し、「ハリネズミの概念は能力ではない」と書かれ、「能力の罠(p.160)」と名付けまでされている。
経済的原動力については、著書では「財務指標の分母」という形でまとめられているとされる(p.165)。具体的には、従業員一人あたり(アボット)、とか、地域あたり(サーキット・シティ)、とか、住宅ローンのリスク水準あたり(ファニーメイ)、来客一人あたり(ウォルグリーンズ)といった具合だ。このカギになる分母は事業に対する深い理解から生まれ、その理解のほうが重要だとされる(分母自体は目的ではない)。
情熱については、虚勢ではなく現実の理解に基づいたものであることと釘を刺されている。あんなこといいなことできたらいいなではないわけだ。
これら3つの円の重なるところを、「評議会」を繰り返しやることだとされる。この評議会は通常なにげない名前で、「長期利益向上委員会」「会社製品委員会」「経営評議会」などの名前がついていたそうだ(p.183)。そうしてハリネズミの概念を獲得するまでに平均4年かかっているらしい(p.188)。
規律の文化
色々書いてあるが、これについては「官僚制度は規律の欠如と無能力という問題を補うためのもの(p.228)」に集約されているように思う。
偉大な実績に飛躍した企業は、はっきりした制約のある一貫したシステムを構築しているが、同時に、このシステムの枠組みの中で、従業員に自由と責任を与えている。みずから規律を守るので管理の必要の以内人たちを雇い、人間ではなく、システムを管理している。
p.200
これを守るには、最初にバスに乗せる人が適切であることが前提であるのは言うまでも無く、またそれが一番難しいようにも思う。
技術に対する考え方
技術者としては、事業における技術の立ち位置は一大トピックである。多くのビジネス書に書かれているように、本書もまた、技術については重要だが源ではないものとしており、「促進剤」という表現をしている。技術に立ち後れては偉大になれないが、技術そのものが飛躍や没落の主因になることもない(p.253)と書いている。
技術者として思うところはあるが、まぁそうなのだろうと思う。
弾み車
弾み車は本書を総括する概念の一つだ。というか、本書の内容は「ハリネズミの概念を獲得し繰り返すことで、弾み車を回す」というように説明できるだろう。もう少しかみ砕いて言えば、ハリネズミの概念の戦略にもとづいたことを愚直に実行していくことで、どこかのタイミングで一気に動き始める、という表現になるだろうか。これは、劇的な変化は突然やってこないことを意味している。あるいは、外から見ると劇的かもしれないが、内部の人間にはそう見えない、ということでもある。
所感
本書を読むのにだいぶ時間を吸い取られてしまった。ビジョナリー・カンパニーとしては2だが、1冊目よりもこちらのほうが実りあるものだと思う。結局書いてあることはハリネズミの概念と弾み車の話だけだが、これはそこまで概念を抽象化した結果だと言える。つくづくあちらの人は抽象化がうまい。
まぁ偉大(Great)以前にGoodになりたいものだが、それはそれとして、確かに事業をやるうえでは一度読んでおいて良い本には違いないと思う。
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