人生、上がりたい…!ジワジワ増加中の「おひとりさまFIRE」を夢見る人が気づいていない「意外な落とし穴」(河田 皓史) | マネー現代 | 講談社
なんか最近、上記記事のようなFIREと人手不足を関連づけた論考があるようだけれど、杞憂という言葉がこれほどぴったりくる話もなかなかないね。断言するけれど、FIREは増えない。条件の達成が難しいし、達成したとしても、FIREの生活に耐えられる人は少数派だ。人生において仕事は大きな役割を果たしている。
妙な話だが、FIREしやすい社会ではFIRE願望を持つ人は減り、FIREしづらい社会ではFIRE願望を持つ人は増えるだろう。逆説的だが、FIRE願望が増えているのであれば、まさにそれこそがFIREが増えない理由である。
FIREが増えない理由
FIREできる条件を達成するのはそもそも難しい
まず当たり前の当たり前の当たり前だが、FIREできる経済的な条件、まぁよく言われる4%戦略から逆算して、ざっくり金融資産1億円と見積もった場合、これを達成できる人がごく少数であるという事実は、わざわざ言うまでも無いことだ。冷静に考えてほしい。1億円の資産を築くことはそんなに簡単か?やろうと思ってできるか?
それができるってことは相当収入があると思うんだけれど、そんな仕事してたら、ほとんどの人はFIREしたいなんて思わないよ。年収1000万円の仕事してたら(それでも1億円の資産はそう簡単に築けないけどね)、社会的地位もまぁまぁあるだろうね。辞めたらそれを失うことになる。そしてそんな仕事してる人はそう多くはない。
FIREの生活に耐えられるのは少数派
また、FIREの生活は基本的に厳しい。まず金融資産に左右されるが、1億円程度では4%戦略だと年収400万程度の生活になる。そっから税引きされて、地獄の保険料だのなんだの払っていくと、毎月使える額は20万にも満たないのではないか。そっから家賃を払って光熱費を払って……となると、まぁ独身ならなんとかなるかもしれないが、所帯なんか絶対もてないよね。1億円、そして1億円築ける何かをしていながら、生活はそれ。耐えられる?
まぁ3億くらいあればいいかもしれないけど、繰り返すが3億円の資産を築くのは簡単ではない。それができるってことは、それ相応の何かしらを達成している。そんな人は社会の中でごくごく少数派である。
多くの場合、むしろ1億円にも満たないだろう。世の中には3000万円程度のFIRE生活をしている人もいるが、そういう人はマジで家賃1万円の住居に住み生活費を極限まで節約している。ハッキリいってそれができるのは一種の能力者であり、普通ではない。ついでに言えば、3000万程度の金融資産を築くのも、一般的には難易度が高い。
また、仕事をしないことによる社会的な立ち位置の喪失も厳しい。多くの人は仕事を通じて社会の中で役割を果たしている。それがなくなると、社会的に宙ぶらりんになってしまう。それに耐えられる人は、ほとんどいない。
FIREできる資産を築くのは簡単ではない。その簡単ではないことを成し遂げた人は、相応のことをしている。それだけのことをする力を持ちながら、生活水準は非常に低いラインに留まり、さらに社会的には死んだような状態になる。それに耐えられる人は、超少数派だよ。
サイドFIREはただの労働者だから
働けば良いのではないか?という意見もある。なるほどそのとおりだ。働いて収入を得れば、問題ない。そしてそういう働いて収入を得ている人のことを、一般的に労働者と呼ぶ。
いやまぁ、サイドFIREとかいう言葉もあるんだけどね。フルで働かずに時短勤務するとか、派遣に登録するとか、ちょっとしたバイトをたまにするとか。でも働いてる以上、それは労働者だよ。フルタイムじゃないと労働者じゃない、なんてことはないね。まぁもうちょっと区分けするなら、世間的には非正規雇用、派遣、あるいはフリーター、そうでもなければ(定職についていないという意味で)無職と言われたりする。今風に言うなら、多様な働き方ってやつだ。まぁなんでもいいんだけど、ただの言葉の問題で、小金持ってるフリーターをサイドFIREって言い換えることに、どんな意味があるというのだろうか。
FIRE願望は社会の貧しさからくる
以上を見ればわかるが、FIREの条件達成は難しい。FIREできる人が多い社会は、豊かな社会と言えるだろう。そして豊かな社会では、そもそもFIREしたいと思う人は少ない。前述したように、人が生きる理由は様々だが、仕事を通じた社会的地位の確立や人間関係の構築は、幸福を得るうえで大きな役割を果たしている。豊かな社会というのは、そういった仕事を通じた生きがいもまた、富んでいるものである。
逆に、そういった生きがいもなく、搾取されているような感覚に陥った状態で、将来の先も見えないと、FIRE願望は強くなるだろう。しかし当然ながら、そのような状態ではFIREの条件を達成できない。
つまり、逆説的だが、FIRE願望が増えているのであれば、まさにそれこそがFIREが増えない理由である。FIRE願望者は生活に不満がある。そのような人が増えている社会は貧しい社会だ。貧しい社会で、FIREの条件を達成できる人は限られる。
社会をよくすること
ただまぁ、FIREないしそれに準じたような生活をする人は、確かに今よりは多少増えると思う。それでも社会の中では超少数派の誤差だろうし、気にするようなもんじゃないと思うけどね。ただ、そういった人をうらやむFIRE願望者は、無視できないほど増えるかもしれない、とは思うな。
これはつまり、社会の中でつらい仕事が蔓延っている、ということになる。つらい仕事というのは、結局のところ得られる報酬と苦労が見合わない仕事、だと思う。FIREが増えるのは、収入が上位の仕事においてさえも、そういう無為な仕事が増え、かつ所帯を持たない(持てない?)などの条件が揃う人が増えることを意味している。そんな状態だから、多くの人はもっと酷い状況というわけだ。
まぁつまり社会全体が貧しいってことなんだけど、なんでそうなるかと言えば、これは僕の思うところなんだけれど、全体として、やるべきことをやらず、やらなくていいことばかりやっているからだろう。これについて具体的に言い始めると別の記事になってしまうので、ここらへんで記事を終えるが、大して増えもしないFIREを心配するよりも、この社会全体の停滞・衰退について考えたほうがよい。FIRE願望は社会の貧しさからくる一つの現象に過ぎないのだから。
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