若手の給与が上がる一方、中堅は下がっているらしい

実質賃金が連続25か月マイナスではあるものの、名目賃金は上がっているとのことだが、大企業の中堅の給与は名目でも下がっているらしい。

中堅は「給料減」 相次ぐ大手企業の「初任給アップ」の背景にある悲しい事情(1/2 ページ) - ITmedia ビジネスオンライン

賃金アップが物価高に追いついていないという論調の中、実は名目賃金すら下がっていることを指摘したこの記事は中々衝撃的だったようで、物議を醸していた。

記事の元ネタは厚労省の調査で、大企業の35〜54歳が綺麗にマイナスになっている(画像)。見事に自分の属性だったので悲しい。世代として舐められている。

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一義的には中堅が辞めないから

僕らの年代がここまで舐めた真似をされるのは、ひとえにみんな辞めないからである。会社はどうせ辞めないでしょと高を括っているし、実際辞めない。市井では「こんなことすれば人がいなくなる」などと言われているようだが、いなくならないのでこうなっている。

僕自身は大学院を中退して最初の段階から躓いたため、自身のキャリアを考えるうえで転職は必須だったが、周囲の新卒から大企業に入った人たちを見渡すと、ほとんどやめていない。中位くらい会社でもほぼ辞めていない。実際のところ、彼らが辞めて次で給与を上げられるかはだいぶ微妙というか、難しいんじゃないかな、とは正直思う。それは能力の問題もあるが、それよりまず枠の問題である。

スペースのない16パズルのように、枠が埋まってゲームにならない状態だ。彼らがさらに給与を上げるにはさらに稼いでる会社に行くことになるが、そういう会社は離職率も低く、むしろ人が余っているくらいなので、転職者は厳しい市場に晒される。リスクをとってそんな苦労をするのは割に合わないと感じられるので、結局辞めない。辞めないので、会社の椅子はいつまでも埋まったままであり、それがさらに転職市場を厳しくさせる。

この悪循環のために、僕くらいのっぴきならない事情がないと、中々みんな転職というリスクを取ろうとしない。転職が難しいため、それが個人にとっては合理的なのである。しかし全体で見ると、個人の合理的な行動がますます転職市場を厳しいものにし、結果皆が損する形になっている。これもいわゆる合成の誤謬というやつだろうか。

何故か年齢で分けられている

何もできない新卒を優遇し、実務を担い責任を負った中堅が冷遇されるのは、明らかにおかしなことだ。これからは実力主義だと言われて久しいが、本当に実力主義なのであれば、実力のない新卒若手の給与が上がるのはどう考えても妙な話であり、実際、アメリカでは新卒が苦しい状況になっている(「昇進減る米労働市場、買い手市場戻る-見捨てられるエントリーレベル - Bloomberg」)が、そうなって然るべきだろう。しかし、今日の日本の現実はそうではない。

つまり、新卒の給与が上がっているのは、彼らの能力が買われているのではなく、年齢を買われているのだし、中堅の給与が下がっているのは、能力が問題なのではなく年齢が問題なのである。逆に言うと、日本の企業は今なお「年齢」というファクタを非常に重視しているのだ。

先の転職市場の話で言えば、この年齢という枠組みが転職市場を厳しくしている。僕らが転職しようとすれば、否応なしに「年齢」という枠組みの中での競争を強いられることになるのだが、そうすると、たとえ能力のある人であっても、既に大企業に勤めている人たちにとって転職は厳しい戦いとなる。転職先に新卒から辞めていない同年代がたくさんいるからだ。たとえ彼らより能力が高かったとしても、そう簡単に入社できるわけではない。

そんなわけで、新卒一括採用のみならず、その後の仕事についてもとにかく年齢で区切りたがる日本企業の雇用慣行が、実力のない新卒の給与は上がっているのに実務を担う中堅の給与が下がるという逆転現象を起こしているのだろう。逆に言うと、そういった雇用慣行からやや外れている中小零細企業においては、中堅の給与も上がっている、というわけだ。

歪な状況

そうは言っても、給与の差が縮まれば中堅のモチベーションはだだ下がりであろうし、それが会社にとって良い影響があるはずはない。既に管理職は罰ゲームなどと言われ始めている(「もはや管理職は罰ゲーム? 縮む給与差、育たない後任、辞めていく女性と若手…昇進が希望にならない日本の会社組織の問題点 | 集英社オンライン | ニュースを本気で噛み砕け」)。この先どこかで「やってられるか!」となりそうな気はするが、それでも彼らが辞めるという選択肢をとるかは甚だ怪しい。個人の行動として転職が厳しい選択であることには変わりないからだ。ただ無気力という形で静かな反抗を示すくらいじゃなかろうか。

そうすると、能力の無い若手とやる気の無い中堅という地獄のような組織が出来上がるわけだが、そんな組織が大企業として日本社会に君臨し力を持つような状況は勘弁してもらいたいものである。

打開の方法

この状況を打開する合理的な方法の一つは、大企業がリストラを進めることだと考えられる。前述のように、雇用が固定化されている状況では、多くの個人にとって転職は非常にリスキーな行動になってしまう。それでも多くが転職に流れはじめる状況は、もう本当に酷い状況と考えられ、そうなる前に手を打ちたい。なので、人員カットに経済的なメリットのある会社の対応に期待するほうが合理的である。不要な人材を切ることができれば席が空くため、その分だけ中途を受け入れやすくなる。個人にリスクをとることを期待するよりは、組織に経済合理的な行動をとることを期待するほうが多少は望みがあるだろう。

理想を言えば、会社のカルチャー(そんなものがあればの話だが)に合わないと判断した個人が自ら退くほうが健全ではあるが、これだけ転職市場が厳しいともはやそういう状況ではないし、また失業手当の制度の話もあるので、実はリストラされたほうが個人にとっても経済的にメリットがある。

また、年齢による無意味な区分をなくし、年齢ではなくキャリアで評価することも大いに進めていく必要がある。新卒一括採用もさっさとやめよう。本当に意味不明。

が、これは大きな話で、それができるなら今こうなっていないのだし、現実的に考えて、個人としては今後もこの傾向は続くという前提で動く必要がある。この対応は決まっている。転職である。これまで中堅にとって転職は厳しい戦いと書いたが、それでもやる。今すぐできなくても、いつでもそれができるように、スキルを習得し、実績を積み、キャリアの形成に励む。そして何より、舐められたらいつでも辞めるという覚悟を決める

それは合理的には割に合わないことかもしれない。しかし、そうして合理的な消極的態度を取っていると、合理的に舐められる。不合理でも、立ち上がるべき時はあるはずだ。そうすることが、長い目で見れば実は合理的だと、僕はそんな風に思うのである。

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