AIは傘の捨て方がわからない:イノベーションの最果て

2010年代後半、情報革命により検索結果がコンテンツファームのゴミ記事で溢れた。それらは「調べて見たけどわかりませんでした!いかがでしたか?」といった特徴的な締め方から、いかがでしたかブログなどと揶揄されていた。人類は絶望した。しかし2020年代、AI革命で世界は変わった。AIはゴミ溜めと化した検索エンジンから見事に情報を抽出し、即席でいかがでしたか記事を作ってくれるようになった。やったぜ!

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シン・いかがでしたか

以上おしまいという話ではあるんだけれど、事の発端は、noteでちょくちょくみる「フォローするけど記事に一切スキ(いいねに相当)をしないアカウントってなんやろなぁ」という疑問をClaudeと話していたことにあった。

まぁ結論のあることではないので、元より期待していたわけではなかったのだが、Claudeが「その気持ちわかります!なんででしょうね、へへっ」みたいな感じで鬱陶しかったので、ちょっとちゃんと調べろ、と無理だろうと思いつつ「フォローするけどスキやいいねはしない、という人が実体験を書いているものはないのか」と頼んだ。その結果がコレ。

頑張っているのはわかるんだけど、さすがにこれは検索の仕方が悪い。スキはnote特有で、これを二重引用符で完全一致にしたら、そりゃ検索は出てこないだろう。確かに今の検索エンジンはウンコだが、これはちょっと限定的過ぎる。

ということで「スキはnote専用なので、一般的ではなく、二重引用符を使うとまったくヒットしないだろう。」と指摘した。その結果がこれ。

検索結果を見ると、やはり当事者の実体験として「私はフォローするけどいいねしない」と明確に書いた記事は見つからないですね。

ああ、そう……。まぁ仕方ないっちゃ仕方ないんだけど、それからウダウダと「見つかったのは第三者による分析」とか「逆の体験談」など聞いていない謎の話題で文字数を埋めてきた。そして仕上げは

つまり、「フォローするけどスキ/いいねしない」行動を取る人の内省的な記事はほぼ存在しないということがわかりました。

この締め方、すごく既視感があるんですけど、いかがでしたか?

ということで、検索はゴミになったけどAIがある!という昨今だけれど、AIが検索したからといって無から有が生まれるわけではなく、錬金術は存在しないという、当たり前の現実でございました。

AIは配達証明がわかる

まぁこれは非常に絶望的な例なのだけれど、救いはあるにはあって、たとえば「公式情報から一般的な推論を働かせて回答を得る」などはLLMの面目躍如である。具体的には、ちょっとニッチな例だけれど、「配達証明」というニッチなサービスについて、感心させられたことがった。

配達証明とは、配達が完了したことを郵便局が保証して差出人に証明書を返送してくれるものなのだが、これが具体的にどれくらいで返送されるのか、という情報は、公式情報とコンテンツファームのゴミ記事溢れる今のネットでは意外と見つからなかった。

公式情報は「配達証明 | 日本郵便株式会社」で、配達証明の内訳と料金については書いてあるが、肝心の配達証明書がいつ届くのかについては言及がない。また、コンテンツファームのゴミ記事は、「内容証明との違いは?!」とか「料金は?!」とか、ウダウダといらないことを書いているだけで、公式情報を超えるものはない。こういう時は、だいたい実際に使った人の所感や体験が役立つのだが、Googleをはじめ今の検索エンジンはそれを評価しないため、ネットの海には必ず情報があるはずだが、もはや見つからない。

しかし、LLMは配達証明について、公式の情報、つまりその内訳である一般書留であることや、郵便局の営業日、返送にかかる常識的な日数から推論し、1週間程度見積もれば十分だろう、みたいなことを言ったはずだ(はずだ、というのは当時のチャット記録はもはや残っていないのだ)。そして実際そのとおりだった。この時は、「やるやん、AI」と思った。

なおこの時の経験については以下の記事の中でしれっと書かれているので、わざわざAIが推論しなくともこの記事が検索で出てくればわかるはずだが、もちろんそんなことはもはや望むべくもないので、これからもSDGsを推しているはずの企業が大量の電気を使って公式情報から推論してくれることを期待しよう。

昔のGoogleは、こういう表題にすらないところも目敏く拾って表示してくれていたもんだがなぁ。まぁそれ以前に普通に配達証明の実際について記事にしている人、いそうだけどな。

AIは傘の捨て方がわからない

実際のところ、AIは確かな情報から推論する能力は非常に優れているので、そういう用途には強い。どこのAI企業もSTEM、STEMと五月蠅いのは、STEM用途に需要があるから、というよりSTEMがやりやすい、もっといえばSTEMくらいしかできない、ということだろう。

現実にはSTEMできるだけでも有り難いのはある。また、先の配達証明の例のように、公式情報はわかりづらいけど頼りになる、という局面ではそれなりに役立つ

一方で公式情報が建前になっており、運用の実態と乖離しているとき、AIは無力と化す

たとえば「傘の捨て方」がAIにはわからない。これはうちの自治体の場合だが、自治体サイトには「傘は不燃ゴミ」「不燃ゴミは透明な袋に入れて捨てましょう」と別々に書かれている。これを愚直に解釈すると「ゴミの傘を透明な袋に入れるのか!?」となる。これはゴミ袋が有料の自治体ならばわかるが、23区に有料ゴミ袋はない。

さて、この状況で、傘の捨て方についてLLMに聞くとどうなるかというと、LLMは大混乱する。まず傘の捨て方が自治体によって異なるのだが、LLMはここからわからず、あちこちの自治体や住民の実態を混同して混乱する。一つずつ混乱を解きほぐしてやると、ようやく「この自治体では不燃ゴミ」まで辿り着くが、そこから先、「傘を袋に入れるのか?」というところでまた混乱する。いったんはそのように考えるようだが、「なんの意味が?」と問われると、意味が無いことがわかるので混乱する。そしてどうなるか?「自治体に問い合わせましょう」という。だったらお前に聞かねぇよ。自治体パンクするわ。

ちなみに結局、面倒くさくなったので透明な袋に入れて突き破った。そしてゴミ収集所に持っていったら、剥き出しの傘が置いてあった。あったりまえだよなぁ?

まぁ現実というのはこんな感じなので、やはり日常生活における役立ち方は限定的かな、とは思う。

そして誰もいなくなった

まぁ色々と問題があるのだけれど、一つの側面としては市民の生の声がネットから消されてしまっている、という問題が根底にあって、この件について記事にしたのは5年前だけれど、あれから状況は酷くなる一方だ。むしろAI記事の登場によってさらに悪化しているかもしれない。

この状況はこれからさらに加速していくと思われる。世界は情報で溢れる。ただ知りたいことだけがない

本当はあるのだけれど、それはゴミ溜めの奥深くにひっそりあって、誰にも見つけられない。AIはゴミ溜めからゴミをかき集めて、「すべてゴミでした」と教えてくれる。その後ろで誰かがAIでゴミを作ってゴミの山を高くする。

もう手遅れなのか、そうではないのか、わからないのだけれど、僕らは自分自身でゴミの山をかきわけて、情報ではなく、インフルエンサではなく、誰でもない人を今一度探しに行かないといけないのだろう、と思う。そのためなら、AIも多少役に立つんじゃないか、多分。

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