「誰にでも出来る仕事」は生物の叡智

「誰にでも出来る仕事」という言い回しがあります。これは基本的にはネガティブな意味を伴うものです。実際、そんなことを言う人は、明確に侮蔑の意図をもっていいます。

ですので当然ながら人に向かって言っていいことではありません。しかしそれとは別に、「誰にでも出来る仕事」はほとんどの場合非常に高度で難しい仕事だ、という認識も必要です。

別に大した話ではありません。多くの鳥が空を飛ぶからといって、空を飛ぶのが簡単だとは言えない、という当たり前の話です。同様に、多くの人間が歩くからといって、歩くことが簡単とは言えません。本当に当たり前です。実際、このように言われれば誰だってそりゃそうだと言うでしょう。

しかし現実世界に適用されたとき、その当たり前を面白いほど忘れます。もしかすると、あなたも。

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人手不足はAIとロボットによる自動化で解決と思ってませんか

たとえば、人手不足が問題だというとき、皆簡単にロボットによる自動化、機械化、AIによる置き換え、といいます。言ってますよね。出来るんですか、機械に。

奇妙な話です。空飛ぶクルマは難しいとわかるのに、なかなか配膳ロボットはそのように考えられない。それは結局のところ、誰にでもできる仕事は簡単だと思っているからではないのでしょうか。だって、誰でも出来るから。

ここで、「簡単」とは誰にとってなのか、が問題になります。鳥にとって簡単なことは人間にとって簡単ではない。同様に、人間にとって簡単なことは、機械にとって簡単ではない。極めて単純な道理です。

注文の機能はタッチパネルで実現できると思ってませんか

この単純な道理を、社会は忘れても、少なくともエンジニアは忘れません。さすがに。それが仕事なので。しかしそれにも関わらず、結局エンジニアも同じ間違いをします。ここが厄介なところです。

エンジニアは人間の得意分野と機械の得意分野を明確に分けます。たとえば騒音の中で自分の名前を呼ぶ声をきき、人混みをかき分けて障害物を避けながら声の方向に向かう、などは人間にとって簡単ですが機械にとっては地獄です。ついでに行く途中にゴミのポイ捨てを見つけたら、拾ってゴミ箱に捨てるなども人間はしてくれるかもしれません。しないかもしれませんが。ま、とにかくこれは機械には難しい。

ですので、たとえば店の中で注文をしようとする客の、なにかしらの合図を察知し、そこに向かい、注文をきき、厨房に戻る、というのはこれはロボットには難しいわけです。

しかし、ここでエンジニアは考えます。客がテーブルの上にあるタッチパネルを入力すればどうだろうか?それならば完全にシステム化が可能です。間違いは客の責任だし、精算や経理にも直結して効率的。なんなら客が自分のスマホで注文してくれたらタッチパネルもいらない。ええやん。

ということで、現在に至ります。

さて、これはどうでしょう、問題がなさそうでしょうか。もし問題がないと思うならば、誰にでも出来る仕事を簡単だと考えている、少なくともその亜種の考え方をしています。どういうことか。

これの問題は、注文を受けるという仕事を、単に一つの機能だと解釈していることです。しかし実際はそうではありません。注文を受ける間に、店内の様子を見て、困っている客がいればあとできき、注文の際には客の要望をきいたり、特別メニューの存在を教えたり、注文のついでに食べ終わった皿を片付けたりします。客とコミュニケーションを取ります。存在自体が店の雰囲気になり、また防犯になります。タッチパネルはそれらすべてを削ぎ落とします。

「誰にでも出来る仕事は簡単」の言い換えに陥らない

どうでしょう、世の中案外、「誰にでも出来る仕事は簡単」の言い換えが多いとわかるんじゃないでしょうか。みんなそうではないと知っているはずなのに、実際には適用を間違える。

無理もない話で、現実はゼロイチではなくグラデーションなので、ケースバイケースなんですよね。実際、機械化・システム化がうまくハマるケースもたくさんあります。タッチパネル一つとっても、ラーメン屋や定食屋で、特に安さがウリのチェーン店だったら、全然問題ないんじゃないでしょうか。何を食べるか最初から決まってますし、だいたい一品物ですし。メリデメでメリットのほうが大きそうです。でも夜の飲みまで考えているなら、それはちょっとどうでしょうね。まして居酒屋、これはもう全然合わないんじゃないでしょうかね。

それでも世の中導入されています。店員の仕事を単に一つの機能とみなすのは、エンジニアやシステム化を生業とするものが陥りがちな誤りですが、この誤りは経営者にとっても非常に魅力的にうつるはずです。だってそんなに簡単なら、機械にできる。機械にできるなら、人を使わなくていい。機械はコストカットである以上に、絶対に逆らわず黙々と働き続けるのが最高です。特に人間不信、あるいは自分が従業員から信用されると信じられない経営者にとって最高です。

まぁそんなわけで、恐らくこの適用範囲を間違えたDXは今後も続くかと思いますが、結局コストをかけて無駄なことをしているだけなので、そのうちに破綻するでしょう。セルフレジはもう既に揺り戻しが始まっているとも聞きますしね。

しかし何も破綻するまで待つ必要はないので、我々としては、誰もが出来る人類が身につけた叡智を、誇りをもってやっていきましょう

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