こんな記事があった。
「ユニクロ式」置くだけセルフレジ、スーパーにも アスタリスクが開発 - 日本経済新聞
詳細は例によって会員限定記事であるために読めないのだが、日経新聞のツイートに軽く補足がある。
商品にシール状の「RFIDタグ」が貼られ、カゴを所定の位置に置くとセンサーが読み取ります。買い物客はスキャンする必要がなく、すぐに決済が可能です。
https://x.com/nikkei/status/2085561688732926447?s=20
結局RFIDタグか。具体的な方式について多少の関心はあるんだけど記事が読めないので、まぁなんでもいいや。どんな方式であろうと、セルフレジは原理的に無理だから。これは技術的な問題ではなく、もっと根本的な問題がある。
セルフレジは何故ダメなのか
昔、どっかでExcelについてなかなかおもしろい揶揄をしているツイートを見た。かつて資料づくりは部下の仕事であったが、ExcelやWordのおかげで無事上司が一人で全部できるようになった、くそったれ、というものだ。
これはデジタル化の本質である。今はみんな大好きなのか知らんがDXと言われるかな。システム化、デジタル化ってやつは、基本的に権限の委譲という側面がある。よくあるクラウドなんとかだのスマートなんとかだのも、全部そう。
セルフレジもDXの一種にあたる。今まで店員がやってきたレジ打ちの仕事を、客がやるわけだ。で、権限の委譲という観点から見ると、これはあまりよろしくない。権限は常に責任と一体なので、物理的には客はレジ打ちの権限とそれを正しく行う責任がある……のだけれど、これは理屈の話で、現実的な損益から見るとまるで異なる。
客はセルフレジで間違えても困らない。間違えられて困るのは店だ。もしかすると意図せずして万引きになってしまい、しかもそれを咎められるということになってしまう可能性はある。これは良き市民であれば非常に気恥ずかしいことだ。良き市民ならね。でも、あまり良くない市民ならどうだろう?たとえわざと万引きしても、それが意図的なものであることを証明するのは難しいだろう。そもそも万引きを見破るのが難しい。
この実行する人と困る人が違うというのは根本的な問題で、技術でカバーするにも限界がある。なにしろ実行者に不正のモチベーションがある。かつそれを取り締まるのが困難となった場合、拠り所はモラルだけであり、モラル・ハザードが起きれば明確にメリットがコストを上回ってしまう。それはスーパーハッカーが大発明的マルウェアで企業情報を盗むよりも、よほど簡単なことだ。
だから、技術的な方式によらず、セルフレジは原理的に成り立たない。もしやるならば完全なるシステム化だけではなく、法律を超えた異常な懲罰がセットで必要だが、それは現実的ではない。世界に一つしかないプラットフォームからスナック菓子感覚でアカウントBANするような簡単なことではないのだね。
うまくいくものもあるんです
逆に言えば、実行する人と困る人、つまり実質的な責任者が同じならば、これはけっこううまくいく。
たとえば最初にあげたExcelでシコシコ頑張る悲しき中間管理職もDXの観点では成功例であるし、また飲食店ならば配膳や水のセルフもワークする。みんな大嫌い経費の申請システムも、失敗したら経費にならなくて困るのは自分なので、腹立たしいことに筋は悪くないんだよねぇ。
いわゆるクラウドサービスなんてのもこの観点だと非常に成功しており、ユーザはもはや社員じゃないのかというほどに献身的だ。オンライン診察とかも、患者側にうまくやりたいモチベがあるよな。
スーパーでも、袋詰めの部分は下手な詰め方して困るの自分だから、実はここだけは客にやらせる筋はあったりする。まぁつまり従来のスーパーなんだが。
まぁとにかく、プレイヤーの「うまくやりたい」「失敗したら困る」というモチベがベースになっているものは、良い悪いは別にだいたいうまくいくわけです。
お客様を神様だと思っている
翻ってセルフレジよ。これはよくないよね。客側はむしろ失敗するほど得しちゃうよね。まぁモラルはおいといてね。いや、そのモラルがすべてなんだよこれ。
店側がお客様のことを本気で神様だと思っているシステム、それがセルフレジ。でもお客様は神様ではなかったと言い続けたのが平成後期から今に至るカスハラだのなんだのって流れなんじゃなかったっけ?えらい都合よくまた神様に昇格させたもんだね。
まぁ現実にはもちろん神様ではないので、セルフレジで万引きが多発し、揺り戻しが起き始めているのが最近だ。
米国では「セルフレジ見直し」が進んでいるのに…万引きが増えても日本のスーパーがやめられない「切実な事情」(柏木 理佳) | マネー現代 | 講談社
日本は見直しまでまだもう少しかかるかもしれないけれど、まぁ時間の問題だろう。だってこれは技術の問題じゃない、人間という原理的な問題だもの。こんなのは仕事の押し付けで、善意の過度な期待。その歪みが出ている。よくもまぁここまで筋の悪いシステムを売り込んだもんだ。これを広めたやつは切腹もんと思う。
まぁでも、悪気があったわけではないのかもしれない。だってまぁ、こういうシステムを考えたり、また設計したり実装したりする人たちってーのは、だいたいのところ良き市民だからねぇ。悪き市民のことなんざスコープ外になりますわな。
まぁ僕も自分自身のことをいえば正直セルフレジは好きだね。一人ひとりは多少もたついても、台数が増えるから捌ける人数は増えることが期待されるし、また慣れてきたら正直早いからね。
神業の店員はどこへ消えた?
だからまぁ、万引き増えようが価格転嫁されなきゃ僕としては知ったことではないので、セルフレジは基本的に歓迎するのだけれど、しかし一つだけ、思い出すと残念なことがある。
東京に住んでいた頃、近所のまいばすけっとが全部セルフレジになったんだけれど、有人レジ時代そのまいばす一人、レジ袋に商品を収める技術が神業の店員さんがおったんよ。
まいばすは小スーパーに分類され、袋詰めはコンビニと同じで店員さんがしてくれるのだけど、そこそこ多めの量を買うことが多い。そこで、一つ問題が発生する。レジ袋を大きいのにするか小さいのにするか、それが問題だ。大きい方がちょっと高いが、入らないと困る。
なので、たいていの店員は判断が難しい量だと「小さい袋にしますか?大きい袋にしますか?」とこっちに責任を投げてくる。自信がないのか「大きい袋でいいですか?」という聞き方をする人もいる。
僕もめんどくさいから、微妙なときは自分から「大きい袋でお願いします」と言っていたよ。これを言うのがめんどくさいのも個人的にはセルフレジを歓迎する理由の一つだな。
で、ある日、「これは言うまでもなく大きい方だろう」と思うくらいの量をレジに持っていった。そしたら店員さん、何も言わずに小さな袋を取り出す。(え、マジで?)と内心びっくりしたんだけど、その店員さんは驚くべきスピードで大量の商品をその小さな袋に詰めていくわけ。そんでもう、本当に、まるで最初からそうなることが決まっていたかのように、ぴったりとおさまっているんだよ。すげぇと声出そうになった。出せばよかったかもしれない。
そういう事が何度かあって、「どうもこの店には神業の達人がいる」と、人間に興味のない僕も個体認識をした。正直その店員さんがいたときはちょっと楽しみだったよな。他の店員なら無言でデカい袋を取り出すだろう、くらいのものを持っていっても、ほとんど小さい袋にささっと詰めていたね。レジで感動したことある?僕はある。
しかしそんな神業も、レジがすべてセルフレジになってしまい二度と拝めなくなってしまった。今はもう、どこにバーコードがあるんだとレジの前で商品をくるくる回して粗雑に袋に突っ込む、レジ打ち代行見習いの僕がいるばかりだ。
お客様が神様で店員が神業だった時代から、テクノロジーの力で万引き予備軍と万引きGメンの時代にトランスフォーメーションしたわけだが、いったい僕らはどこに向かっているんだろうねぇ。
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