みらいまる見え政治資金は何をまる見えにするか

こんな記事があった。

「みらい まる見え政治資金」…AIエンジニアの安野党首が開発し活用呼びかけ : 読売新聞

短い記事なので全文を引用する。

 チームみらいの安野党首は2日の記者会見で、政治資金の収支を可視化するツールを開発したと発表した。資金源や使途など政治資金の流れをホームページで公開し、一目で分かるようにするものだ。他党の国会議員らに活用を呼びかけている。

 安野氏はAI(人工知能)エンジニアとして知られる。ツールは「みらい まる見え政治資金」と名付け、銀行口座やクレジットカードなどのデータと、会計ソフトを自動連携させた。現行の「政治資金収支報告書」は年1回、提出して公開されているが、ツールを使えば省力化やミス防止につながり、月ごとの収支や貸借対照表、明細を随時公表することが可能になる。

 安野氏は、透明性の向上を図るため、政治資金規正法の改正も視野に入れた各党との協議に意欲を示しており、「透明性をもって公開することが有権者の評価につながる」と述べた。

記事では触れられていないが、OSSのようだ。まぁこれは必要最低条件なので当然といえる。

目次

ネットの反応は好意的

本件についてネットで反応を見ていると、概ね好意的なコメントが多いようだった。Yahooニュースでも取り上げられていたが、人気コメントはほぼ称賛であり、Xでも引用ツイートを見ると……これはどうだろう?半分くらいは好意的かなと思うが、全体としてどうかは君自身の目で判断するんだ。

XユーザーのYahoo!ニュースさん: 「【政治資金の透明化 安野党首ら開発】 https://t.co/C0zEdqeH7e」 / X

まぁX民は捻くれ者が多いことを差っ引いて、全体的にはポジティブであろう、とは感じられる。

命題の筋が悪い:悪いことはしていないという悪魔の証明

このツールの全貌、実態がどんなものかは不明である。ただ期待されているであろう効果は持ち得ないだろう。というのも、こういったものは原理的に「正直者が正直な告白をしやすくなるツール」にしかならないからだ。

たとえば、会計ソフトなども基本的にそうである。会計ソフトは煩雑な経理のミスをなくすものだが、「入力すべき情報を入力しない」「勘定科目を微妙なラインで誤魔化す」「循環取引」など、意図をもった不正に直接対応するものではない。企業の不正会計や粉飾は、ほとんどの場合事務的ミスではなく意図をもった不正によるものだ。

そして政治家で問題となっているのは彼らの事務的ミスではなく意図的な不記載であろう。もっとも、本当にそれが意図的であると証明することが難しいのは知ってのとおりだ。

だが本当に知りたいのは、この意図的な不正だ。つまり、「嘘つきかもしれない人が嘘をついていないこと」の証明が、本当の需要だ。

しかしこれは悪魔の証明なので、論理的に証明不可能であるし、現実的に証明することも困難を極める。なので、技術的に実現可能な「正直者の正直に告白しやすいもの」が作られることになる

この動きはIT業界で繰り返されており、たとえばHTTPSやDKIM、最近だとC2PAもそんな感じだが、この話は以前したので繰り返さない。

命題である「政治資金の透明化」とはつまり「不正な資金の流れがないことの証明」である。これは原理的に不可能であるし、技術で解決できないことはITの世界が立証し続けている。この命題の筋の悪さから、ツールについては期待される効果は無いだろうと言わざるを得ない

まぁ他にも実際的な問題としては、「どうやって使わせるのか」「どうやってツールの正当性を客観的に証明するのか」「他党からすれば、他党との作ったツールに依存するのは致命的リスク」「罰則がなければ結局嘘をつくだけでは」「かといって強制したら利権化しないか」「OSSでも開発者の影響は免れ得ない」などもありそれぞれ深刻だが、これらは命題自体の筋の悪さから派生するものと考える。嘘つきが嘘をつかないインセンティブがないことに起因している。

逆に、「嘘つきかもしれない人たち同志で、真性の取引をする」という筋の良い命題を掲げて実現したのがビットコインである。ビットコインも色々な問題があったが、それでもなんとかなったことの前提として、命題が証明可能な筋の良いものであった、というのは大きいと思う。

政治戦略的な意図はあるかもしれない

とまぁここまで批判したわけだが、一方で、チームみらいはそんなことはわかっているのでは、とも思う。わかったうえで、政治的戦略として公開したのだろう、と思える。実際、ネットの好意的反応を見れば、ブランディング効果は大いにあったのではなかろうか。

  • 金の流れについてクリーンな印象
  • 党首自ら技術力があることのアピール
  • 世論を背景にした他党に対する心理的プレッシャー

投票に繋がるどうかはは別だが、全体的にチームみらいへの期待感は高まっていたように見えたし、その数が大きければ、政治家にも多少のプレッシャーを与えることはできるかもしれない。そして世論の力をえて、ツールを利用しながら「政治資金規正法」まで辿り着くシナリオがある、のかもしれない

まぁ現実には、恐らく足場固めの状態だと思うが……

これはあくまでも推測ではあるのだけれど、いずれにせよ、このツールを発表した、というのは基本的にはそれ自体がどういうというより、「政治的なメッセージ」であることは確かだ。

政治的な戦略として

彼らはエンジニア出身とはいえ今は政治家なのだから、政治家としての動きと考えれば、まぁそうなるのかなぁ、と思いつつも、しかしどうにも、「技術的な限界を意図的に隠蔽していないか」という気持ちがある。

まぁこのツールがデファクトスタンダードになるとは思えないので入らぬ心配だろうが、もし流行って規格化されるとそれはコストになるし、その時のチームみらいの立ち位置によっては力にすらなりうる。しかもそれでよくなるならいいのだが、前述のとおり良くはならない。安野のツールを使わないとやましい扱いされれば、正直者の議員(いればの話だが)は、他党が作ったツールを利用する運用を迫られ、逆に裏金議員はツールを使いながら意図をもって不正を続けるだろう。その時ツールは盗人に誤った認定ラベルを貼ることになる。

IT世界のビッグカンパニーに振り回されてきた身としては、そういう事態をかなり疑ってしまうし、技術としてもそういう結果を生み出すようなやり方は不誠実なんじゃないのか、という風にも感じてしまう。

まぁ政治の世界はITとかけ離れてすぎていたから、使われているのがファクリミリではないだけでも一定の感動があるのかもしれない。実際未だに自サイトない議員もよくいるしなぁ。その中でやっていくのだから、政治が綺麗事じゃないことは理解する。でもやはり命題の筋の悪さばかりは気にかかる

この命題はやはり転換できる必要があるのではないか。また、結局のところ最後は人間である。何かビットコインのような、技術的脆弱性を人間心理・社会心理で克服巣するような、逆転の発想があればいいんだがね……。

しかしまぁいずれにせよ、チームみらいの動きには引き続き注目はしているものの、現段階では彼ら自身の意図に未だ見えないところが大きいので、警戒している、といったところだ。

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