まぁ増えてないと思うんだよ。最近はAI狂騒曲みたいな感じで、AIを使いこなさなければエンジニア(なんならビジネスパーソン)にあらず、みたいな雰囲気もある中で、我先にとなんだか課金を競っているような印象すらある。まぁ別に好きにすればいいんだけど、ただそれで収入が増えたのか、あるいは増えるという確信があるのか、という現実は見据えるべきだと思う。
今までのサブスク代を全部あわせてそれより高い
そもそも月額20ドルのサブスクは、個人が課金するものとしてはかなり高い。実際、最初に出たときはみんな「げっ」と思ったはず。それがいつのまにか、$100だの$200だのというプランが出てきて、これは投資だ、みたいなことを言い始める人まで散見されるのだが、年間2400ドル、今のドル円相場なら36万円、これは毎年の利用料として法外に高い。
それで100万稼げるならいいが、現実の商売はそんなに甘いものではなく、今のところAIは勝手に顧客を見つけて勝手に稼いできてはくれない(まぁそれが出来るぞと言い張っているようなサービスは見受けられるが……)。つまり確かな支出が増えた人はたくさん見る一方、それで収入に繋がったぞ、という人はほとんど見ない。
コスト削減は良いことなのか
企業や個人事業主の中には、今まで外注していたタスクをAIに投げることでコスト削減できた、というところはあるだろう。それくらいじゃないか。まぁそれとて、社会全体の中では、本来人に支払われていた対価がアメリカのビッグテックと電力会社に流れているだけなので、あまり良いことではなさそうだ。
実際、社会全体では既に影響が出ているようで、「AIは若年労働者の雇用を奪っている:米研究結果 | WIRED.jp」などの記事が出ているように、「AIが仕事を奪う」というより既に「AIが仕事を奪っている」状況がみられる。エンジニアは今まで支払っていなかったサブスク代を支払うようになった一方で、現実として雇用の市場は厳しくなっているようだ。
ということで、今は未だ今までできなかったことができて素晴らしい、という感じかもしれないのだが、そのうちに自分の雇用や収入に深刻な影響が出ている、ということが肌身で感じられるようにしたがって、エンジニアの間でも目に見えた動揺が広まるのではなかろうか。それには、まだ少し時間がかかるだろうけれど。
技術は人を殺さないが幸せにもしない
ここ100年ばかりで多くの人が忘れている気がするが、技術革新それそのものは、人も社会も幸せにしない。Winny裁判などで「包丁が人を殺すのではない」とよく言われていたものだが、これは完全にそのとおりなのだけれど、同様に包丁が人を幸せにするわけでもない。人を殺すのも人を幸せにするのも結局は人であって、技術はただそこにあるだけだ。
実際、産業革命における労働者の悲惨さは世界史の教科書に載っていることだ。労働者は自分が作ったものを買えなかった。それができるようになるには、たとえばフォードの登場を待たねばならなかった。
そして20世紀は労働者が作ったものを買える時代になったので、技術革新と人々の豊かさは比例したものと思う。それは我々の人生のサイクルよりも長いので、所詮人生一代目の我々は、その浅薄な経験から、技術革新と豊かさを結びつけていないか。だがそれは普通ではないし、実際、情報革命以降、その流れは必ずしも続いていない。そして先進諸国、特にアメリカにおいて深刻な経済格差になっていることは、今さら僕が言うまでもない。
そして情報革命の次にAI革命だと言うが、このAI革命で作る人と消費する人は一致しているだろうか。とてもそのようには見えない。みんなそれがわかっているからこそ、自分だけはトレンドに乗り遅れまいと、年間数十万にもなるような利用料を進んで払おうとする人まで出ているのではないか。
しかし、AIの利用自体は消費である。AIを以て何か作らねばならないわけだが、いったいぜんたい、それは求められたものだろうか。誰も求めていないものをいくら作ったところでどうにもならない。AIを使っていったいなにを作ろうというのだろう?
100万個のピラミッドができる
で、ここが問題なのだが、僕はこれからピラミッドが100万個できるのではなかろうか、という風に思っている。というか、今までも実はピラミッド作りがもっとも盛んで、そのうち目立つモノについてはブルシット・ジョブというラベルを貼られたりもしていたが、現代のピラミッドはもっと巧妙に色々なところに蔓延っている。
ピラミッドに実質的な価値はないが、僅かであれば、なんだか見栄えがするし、価値があるように感じられるかもしれない。ただ100万個あったらどうだろうか。そのとき、すべてのピラミッドが価値を失うだろう。ピラミッドは数が少ないから価値があるように見えるのであって、100万個あったら邪魔なゴミでしかない。
そしてAIは、現代に我々が仕事だと思っていたものが、いかにピラミッド作りだったのかということを、幾千万のゴミという形で、顕現化させるのではなかろうか。
100万の同意ポップアップができる
これはやや抽象的な議論なので、一つ卑近な具体例として、クッキーの同意ポップアップをあげよう。あれはEUがなんかケチつけたせいで世界中のサイトに置かれているが、現実的にあれのポリシーを一つ一つのサイトで明確に判断し適切な同意をしている人類などほぼ皆無と思う。
つまり何の意味も無いのだが、しかしあれの実装はちょっと面倒くさい。その面倒くさいコードを、AIが書いてくれる。そしてAIが作った同意ポップアップを、今度はAIブラウザが、自動的に同意してくれる。AIが作ったポリシーに基づいてAIがコードを作りAIが同意する。とても効率的になった。人間は一切介在しなくてよい。素晴らしい。これでもっとたくさんの同意ポップアップが作れるぞ。
これは本当にバカバカしいが、起こりうる世界線である。100万の同意ポップアップをAIが作りAIが同意する。これはさすがに誰でも愚かだとわかるが、しかしもう一つ疑問が浮かぶはずだ。そもそも同意ポップアップなんか一つもいらなかったのではないか?
こういうことが、AIによる偽の効率化によって、これからどんどん白日の下にさらされていくのではなかろうか。
200ドルってなかなかよ
ということで、AIは確かにスゴいもんだが、ちょっと深呼吸をして、それで一体何をしようと言うのかは、考えるべきだと思う。同意ポップアップではなく、ピラミッドではなく、自分が欲しいものを作りたいし、友人が本当に欲しがっているものを作りたい。
なんだか世界はあまりそうなっていない気はするので、結局100万のピラミッドが出来るんかもしらんと思いつつ、まぁそうなったとして、ピラミッドで腹は膨れないし、きっとどこかで本当は何が必要だったのかと、立ち返る日も来るだろう。
だが人生は一度しかない。社会がいつか立ち返ったとしても、その時年老いた自分が失った時間は取り戻せない。走馬灯が同意ポップアップで埋まったら嫌だろう?だから、まぁ、AIに金を払えるならそこまで逼迫してはいないんだろうから、いったん立ち止まって考えてもいいんじゃないかね。
まぁ、そんな先のことは置いといてもだね、とりあえず月額200ドルは躊躇うのが市民として健全なのではなかろうか。どうせならミニPCを買おう(唐突な宣伝)。


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