最近必要があって税制や社会保険について調べているのだが、わかってはいたけれどその負担の大きさに改めてウンザリしてしまい、気がつくと手が勝手に「社会保険料 高すぎる」で検索していた。で、そうするといくつかの記事が出てきたのだが、どれもこれも財務省の資料を引用して「日本の国民負担は世界的に重いほうではない」と判で押したように同じ浅い結論を出しており、もっとウンザリした。
無意味な比較
必ずのように出てくる資料とは「令和6年度の国民負担率を公表します : 財務省」にある以下だ。
この「国民負担率の国際比較」の資料をもって、日本の国民負担率は世界的に見て別に重い方ではない、と結論づけるのがお決まりの流れだ。財務省に金もらってんのか。
国民負担率とは租税負担率と社会保障負担率を国民所得で割ったものとのことだ。国民所得とはGDPのことかと思うが、まぁこれはいいよ。GDPは誤魔化しづらいだろうし、どこも計算は同じだろう。一方で租税負担率と社会保障負担率について、これは各国の集計が本当に同等と言えるのかがまず疑わしい。たとえばアメリカはそもそも国民皆保険制度がないわけだが、そんなアメリカの社会保障率と日本の社会保障率を並べることに本当に意味はあるのか。税制や社会保障の制度は各国で異なるのだから、一概に比較することは難しいだろう。
日本だけ見ても、租税と社会保険料についても、どこまでが含まれているのかはよくわからない。たとえば電気代の再エネ賦課金なんかは実質税金なわけだが、これは租税負担率に入っているのだろうか?もしこれがGDPにしか計上されていないのであれば、実質税金であるにも関わらずむしろ国民負担率を下げていることになってしまう。
また、税金や社会保険料の使われ方も、実際の負担に大きく影響する。極端な例をあげると、10万円納めても7万円が手当で返ってくる場合と、5万円納めて何も返ってこない場合では、税負担そのものは前者のほうが大きいが、実際に家庭の負担が大きいのは後者である。つまり、なんとか手当のように直接還付が大きい場合と、田舎の公共事業や老人医療のように、直接自分と関わらないものに大金が割かれていた場合では、同じだけ支出があっても実際の負担はまったく異なる。そこらへんどうなっているかは当然国ごとに異なっている。
これらの無視できない違いを無視したこの図になんか意味ある?ないだろ。こんなもん、財務省が日本の国民負担は大きくない(だからもっと税金上げてもいいよね)と言いたいだけの絵やん。徴税側の人間が作った資料を無邪気に引用して、深く考えることもなく財務省的な結論出してるんだから、金もらってんのかとも言いたくなるってもんだろう。
相手の立場に気をつけろ
別にこれに限ったことではなく、基本的に出された資料を鵜呑みにするのは愚かしい。投資をする時には必ず目論見書を読むと思うが、あれに書いてあることをまんま信じ込む人はいないはずだ。あれは買わせたい人が作ったものだから、みんな眉に唾をつけて読むだろう。それと同じ事だ。
また、データを見る時にも注意が必要だ。解釈の幅が広いやつは基本的に眉唾だと思った方がいい。この国民負担率の国際比較なんかまさにその例だが、他にも幸福指数とかジェンダー指数とか腐敗認識指数とかもそうだ。これらはまったく参考にならないとまでは言わないが、逆に言うと参考程度にしかならないだろう。少なくとも、実態を表していると無邪気に考えるべきではない。むしろ実態と乖離しているという前提にたち、乖離していると考えられる点の補正をしながら慎重に考察を進めていくべきだ。
一方で、人口とか総所得なんかは、かなり誤魔化しづらい数値と言える。ではこれを使っていれば安心かといえば、やはりそれもそんなことはなく、たとえばX軸の切り取り方なんかで見え方はまったく変わるわけだ。
出された資料にはなんらかの意図があるものだ。その意図にとって都合の良い見せ方をしているだろう、という前提にたって、批判的に見なくてはいけない。相手の立場を考えれば、意図は自ずと見えてくるものだ。
こういう考え方は日常でも大事で、たとえばスマホなんかでありがちな「3万ポイントつくから実質2万円!」みたいな売り出し方は典型的な売手のロジックであり、のっかるべきではない。この場合、買手は「5万円でスマホと3万ポイントが手に入る」という考え方をしなくてはいけない(この3万ポイントはしばしば使い道や期限に制約があり、現金と同じようには扱えない。現金と同じように扱えないものを、さも現金のように言うトリックである)。つまり、「総額いくら払って、その結果何が得られるのか」で、これこそが誤魔化しのない買手の考え方である。
参考までに、この買手と売手の考え方について以前書いた記事。
昔に比べて負担が大きいとは言える
まぁそんなわけで、財務省の作った国民負担率の国際比較を以て日本の国民負担が諸外国と比べて重くないなんて、全然言えないということだ。
一方で、財務省が出しているもう一つのデータ、「国民負担率の推移」のほうはけっこう参考になると思う。これは定点観測なので、データの取り方にもそんなに差がないだろうから、絶対値としてはともかく、相対値としては参考にしていいだろう。
たとえばデータを取り始めた?1970年時点は24.3%だったのに対し、2024年は45.1%と倍近くになっているが、負担率が倍になったことは必ずしも実態としての負担が倍になったことを示さないけれど、「50年前と比べて負担は大きく上がった」ことの論拠には十分なりえる。つまり、父母や祖父母の世代と比べた時、今の現役世代のほうが税負担が大きいと言う議論はできそう、というわけだ。財務省もさすがにこれは誤魔化せない。
ということで、言いたいことを言ったので少しスッキリしたが、それで負担が変わるわけでもない現実。つらいねぇ。
最後に、僕は基本的に政府の介入を好まない自由主義者であり、そのような立場からこの記事を書いたことだけ付しておく。
コメント