現場に入り始めの頃、どう見てもアナログ・オシロスコープだと思ったものをデジタル・オシロスコープだと言われて戸惑ったことがあります。だって、表示部がブラウン管ですよ、これアナログだからじゃないんですか、と。ところがこのオシロスコープにおけるアナログ、デジタルは歴史的経緯もあってけっこう微妙で、ついでに言うと、どうも世代によって言葉の使い方が違うようで、私は非常に混乱しました。一応今はなんとか整理がついたので、まとめておきたいと思います。
デジタルとアナログの違い
オシロスコープのアナログ、デジタルの呼び名の変遷については、「オシロスコープ - Wikipedia」と「デジタル・オシロスコープ と デジタル・ストレージ・オシロスコープ の違... - Yahoo!知恵袋」が参考になります(どうも、電子系の話題は知恵袋の情報が多いような気がします)。ポイントは、アナログ・デジタルとオシロスコープの間には「ストレージ」が省略されている、ということです。
何故ストレージが略されているかというと、アナログ・ストレージなんてもう絶滅しているので、わざわざ言う必要もない、という経緯だと知恵袋では解説されています。確かに、少なくとも私は見たことがない。きっとそうなのでしょう。となれば、表示部がブラウン管かどうかはアナログ、デジタルの区別からは関係がない。まぁそう言われれば確かに、内部でAD変換をしていることと表示が液晶かブラウン管かなどというのはまた別の話です。ただ、AD変換 -> メモリに保存 -> 表示 というステップを必ず踏んでいるのであれば問題ないですが、Wikipediaには以下の記述があります。
古くはアナログ・オシロスコープにアナログ-デジタル変換回路(ADC)でデジタル化したデータをメモリに蓄積し、それを表示する機能を装備したものをこう呼んだが、現在では入力信号をデジタル変換して処理し、表示するものがほとんどである。
つまり、リアルタイムな表示は従来のアナログ・オシロスコープと同様のものがあるということです(私のいた現場にもありました。リアルタイム表示の設定ボタンはREAL、と書いていました。そして筐体には、デジタル・ストレージ・オシロスコープの文字が…)。これを今の感覚でデジタル・オシロスコープと呼ぶのにはかなり違和感があります。Wikipediaもそのへんの区分について「古くはそう呼んだ」程度でぼかしているので、微妙なのでしょう。しかしながら、あくまでストレージを省略したものだと考えるのであれば、デジタル・オシロスコープと呼ぶことは少なくとも嘘ではない。特に、昔からの技術者にとってその呼び方は違和感があるものではない。もっとも、本来的に同じ意味とはいえ、デジタル・ストレージ・オシロスコープとデジタル・オシロスコープではやはりニュアンスが違うのも事実だとは思いますが。
まぁ、デジタル・ストレージを採用しているものをデジタル・オシロスコープと言えば、とりあえず間違いではないということです。
人による呼び名の揺れについて
そうは言っても、表示がブラウン管であれば、若い技術者にとってデジタル・オシロスコープという感じはしません。前述したように、デジタル・オシロスコープとデジタル・ストレージ・オシロスコープではやはりニュアンスが違います。だから、ブラウン管のものはデジタル・ストレージ・オシロスコープも含めて全部アナログ・オシロスコープと呼ぶ人もいます。そこで、デジタル・ストレージ・オシロスコープのすべてが、AD変換を通したものを表示しているのであれば、それは間違いであると明確に言えると思うのですが、中にはあくまでデータの保存にAD変換を採用しているだけ、というものもあるようなので、そう考えるとあらゆるケースで必ずしも間違いである、とは言い切れない。ややこしい話です。
そもそも、現実に現場でのやりとりにおいて大切なことは、言葉の正しい意味よりも、相手が何を言わんとしているか、ということです。ですから、年配の人が「デジオシ(デジタル・オシロスコープ)持ってきて」といえば、それは表示の方式には拘らずデジタル・ストレージ・オシロスコープと考えてよいと思いますが、比較的若い人の場合は、少なくとも画面が液晶のオシロスコープを期待しているように思えます。まぁ、意味を把握したうえで、最終的にはケース・バイ・ケースということでしょうか。つまらん結論ですが。
結局どう呼べばいいのか
さて、呼び方には状況による揺れがあることをここまでつらつらと書いてきたわけですが、では自分で呼ぶ時にはどうすればいいのでしょうか。それはとても簡単で、自分からは何もつけずに「オシロスコープ」と言えば良いと思います。このご時世、わざわざアナログとかデジタルとか指定する必要は、まずないはずです。
時が経てばオシロはほぼすべてデジタル・オシロスコープになりましょうから、そもそもデジオシ、などという言葉がなくなると思いますし(アナログ派は存在し続けるでしょうけれど、それも今のレコード愛好家のような立ち位置になるのではないでしょうか)、こういう悩みからも解放されるでしょう。とはいえ、現場にはまだまだ古い測定器が転がっていますから、知識として覚えておくと、無用な混乱をせずに済みます。
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